一人で頑張りすぎず、周囲の人と一緒に頑張っていけたら-妊娠期・産後アスリート-一人で頑張りすぎず、周囲の人と一緒に頑張っていけたら-妊娠期・産後アスリート-

パラ陸上・砲丸投げ 齋藤由希子選手

パラ陸上競技・砲丸投げの齋藤由希子選手は、2022年3月に第一子の女の子を出産。産後6カ月からハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)国立スポーツ科学センター(JISS)にて女性アスリート研究・支援プロジェクトによるサポートを実施。パラリンピックでのメダル獲得を目指す齋藤選手に、産後の身体の変化やJISSでのサポートを受けて感じたことを聞きました。インタビュー内容は2023年11月(産後1年8カ月)当時のものです。

――大家族への憧れ

若い頃から、大家族や出産に対する憧れがありました。東京2020パラリンピックが終わったら出産したいと周囲に話していましたが、東京2020パラリンピックの延期や、自分のメイン種目である砲丸投げがパリ2024パラリンピックの種目に採用されたことなどがあり、時期については悩んでいました。結果的に東京2020パラリンピックには出場できませんでしたが、偶然本来望んでいたタイミングで子どもを授かりました。

――産後の身体の変化

産後のトレーニング開始は産後2カ月から、競技場に出て体を動かしていました。同じ地元(福島市)にいらっしゃるパラ陸上連盟の宍戸英樹強化委員長(取材当時)にトレーニングや練習を見ていただいています。

産前産後の一番の身体の変化は、競技面では筋力の低下、トレーニング面では尿漏れでした。妊娠中、体重を増やさないように産婦人科で指導され、食事制限に重点を置いたところ、出産後体重が15㎏落ちてしまい、砲丸が重く感じるようになりました。また、トレーニング中に尿漏れが起こって力が抜けてしまうことがしばらく続き、自分にとっては大きな衝撃でした。

産後1年頃からパフォーマンスは戻ってきていましたが、身体が戻りきらない中で無理して頑張っていた感じでした。1年半かけて、やっと身体も整っていきました。出産後も「負けずに身体を戻してやる!」という強い気持ちでトレーニングをしていました。産後だからということは関係なく、競技面の目標として世界で戦える立ち位置に戻りたいと思っています。

――家族や周囲のサポート

出産後、すぐに母親が自宅に来て1カ月ほど育児を手伝ってくれました。母親が戻るタイミングで、夫が1年間の育児休暇を取ってくれました。夫の育児休暇1年間は、夫の会社でも前例のないことだったと思うので、負担があったかと思います。本来は夫が私のコーチをしているのですが、産後は私が練習の時は夫が家で子どもをみていたので、どのようなトレーニングをしたら良いか分からず、 宍戸強化委員長(取材当時)に相談しながら練習をしていました。また、夫が子どもをベビーカーで競技場に連れて来て指導してもらうこともありました。産後1年間は育児や練習を手探りでやっていました。

――産後サポートを受けるきっかけ

パリ2024パラリンピックで砲丸投げが種目採用となり、出産直後に強化指定選手に復帰しました。競技成績や遠征などへの参加に対する不安を相談する中で、パラ陸上連盟からJISSの産後サポートについて教えてもらいました。第一子で分からないことも多く、競技力低下が想像以上だった事もあり、「助けてもらえるものなら助けてほしい」とすがる思いでお願いしました。

――一人ではない安心感

産後6カ月の評価からJISSでサポートを受け始めました。サポートを受けることで、一人で競技復帰を目指さなくて良いという安心感がありました。JISSには産後競技復帰をしている他のアスリートの前例もあり、追いつけ追い越せという気持ちで頑張ることができました。

サポートの中で一番頼っていたのはリハビリでの尿漏れに関する相談です。骨盤底筋のトレーニングを教えてもらったり、エコーで自分の身体の状態を知ることができて助かりました。

また、心理サポートでも相談させていただきました。産後は競技をする一方で、子どもと離れることへの罪悪感が強く、情緒不安定な時期を過ごしていました。「本当は自分がやらないといけないことなのに」と主人にも子どもにも申し訳ないと感じていた時期がありました。心理サポートでは、そんな不安を話すことができて助かりました。世界選手権の直前にはオンラインで相談させていただき、気持ちの整理を手伝っていただきました。

――妊娠・出産を考えているアスリートの皆さんへ

私の周りには、出産を経験していない選手もママアスリートとして競技をしている方もいます。両者を見て、私はママアスリートとして競技復帰することを選択しました。自分の競技や生活、どういう人生を送りたいかを考えて、一番良い選択をしていただいたら良いと思います。

出産直後は、競技と育児の両立について不安を抱えていましたが、子どもの成長に伴ってメンタル面も環境も整ってきました。今は自分の目標に向かって、充実した生活を送っています。最初は分からなくて大変なことが多いけれど、手を差し伸べてくれる人たちも沢山います。私も一人で頑張りすぎず、みんなで頑張っていきたいと思います。一緒に頑張りましょう!

齋藤由希子(さいとうゆきこ)

パラ陸上F46砲丸投げ。SMBC日興証券株式会社所属。中学1年生の時、陸上競技部顧問にスカウトされて砲丸投げと出会う。2014年アジアパラ競技大会の砲丸投げで金メダル、円盤投げで金メダル。2023年世界パラ陸上競技選手権大会の砲丸投げで銅メダル。砲丸投げで世界新記録を2度更新。2022年まで世界記録保持。2024年のパリパラリンピックへ出場し、4位入賞。今後の目標はパラリンピックでのメダル獲得。そして家族の自慢になるパワフル母ちゃん!

HPSC Female Sport vol.2より転載(一部改変)

 

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