自分のからだと真に向き合える貴重な時間
トレーニング指導員 横田涼
妊娠をするとからだは大きく変化します。胎児、羊水、胎盤、子宮などの重量増に伴い、体重は日々増加するため、姿勢や重心の取り方も変わります。お腹が大きくなれば腹筋が伸ばされ、重くなったお腹が下がると骨盤底筋にも大きなストレスがかかります。
出産後のトラブルには、尿漏れ、腰痛、体幹の弱化がありますが、これらはこうした筋の機能低下にあります。ですので、産後トレーニングの最大の目的は、低下した筋力を回復させ、筋機能を改善することです。特に骨盤底筋の強化・機能改善、骨盤帯・体幹部の安定性向上を目指します。これらのトレーニングは今まで行ってきたどのトレーニング種目よりも地味で簡単そうに見えるものが多いですが、今後の競技復帰には重要かつ有効的なものばかりです。
競技復帰を目指すアスリートにとって、地味なトレーニング内容や自分のために使える時間が足りないことは大きな不安につながります。そのため、私がアスリートに伝えているのは、焦らずリセットできるいい機会だと思うことです。例えば、筋力の回復や筋機能の改善をする中で、今まで意識してこなかった体幹部を安定化させる新たな感覚を得る機会になるからです。この時期は自分のからだと真に向き合える貴重な時間です。「10カ月かけて変わったからだは少なくとも10カ月かけて戻していきましょう」と話します。
夜泣き・急な体調不良・託児の問題など、育児と競技復帰の両立は決して容易いものではありません。しかし、限りある練習時間に全集中して効率的に向き合う能力と、母としての覚悟が加わったアスリートは、大きな力を得ると信じています。
産前産後は体調や環境に個人差が大きいため、一人ひとりに合ったきめ細やかなサポートが必要です。コミュニケーションを密にし、アスリートの輝かしい未来を全力で応援します。
HPSC Female Sport vol.1より転載(一部改変)
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